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AIに引き継ぎファイルを持たせる|設計事務所の記録の作り方

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AIに「昨日」を持たせる

AIに「昨日」を持たせる

2026/08/28

いつもご覧いただきありがとうございます。

前回の連載では、当社が設計の進め方をどう変えたかを6回にわたって書きました。今回はその先、AIをどう扱っているかという運用の中身を書きます。

前回の連載を始めてから、まだ2週間ほどです。そのあいだにも当社のやり方はまた変わりました。変わった部分を書きます。

この回が効くのは、品質の再現性です。

  • AIとの作業には区切りがあり、区切ると前回までの経緯は残りません。
  • そこで、区切りのたびに引き継ぎファイルを書かせています。現在38本あります。
  • 書き方の要点はひとつ。要約しないことです。

毎朝、記憶を失って出社してくる

前回の連載で、当社はAIを「導入した」のではなく「雇った」と書きました。名前を付けて呼び、指示の作法を決め、失敗したら原因を書かせる。人に仕事を任せるときと同じことをやってきた、という話です。

ただ、人と決定的に違う点がひとつあります。

AIとの作業には区切りがあります。一区切りついて画面を閉じると、そこまでのやり取りは次に持ち越されません。次に開いたときには、前回何を検討し、何を決め、何を捨てたかを覚えていません。

例えるなら、極めて優秀な人が、毎朝きれいに記憶を失って出社してくるようなものです。能力は落ちていません。判断も速い。しかし昨日のことは何も知りません。

放っておくとどうなるか。毎回ゼロから説明することになります。この建物は何階建てで、柱はこの断面で、この部分はこう納めることになっていて、この案は先週すでに検討して捨てた——。説明にかかる時間の方が、実際の作業より長くなります。

前回の連載で書いた「捨てた案も理由を付けて残す」というルールは、もともとこの問題への対策でした。ただ、それだけでは足りませんでした。

引き継ぎファイル

いま当社がやっているのは、作業の区切りごとに、AI自身に引き継ぎファイルを書かせることです。

形式はテキストファイル(拡張子 .md)です。特別なソフトは要りません。案件のフォルダに、日付を付けて置いていきます。

現在、事務所全体で38本あります。ここ3週間で作られた記録ファイルは87本になりました。

何を書かせるか

書く内容は決めてあります。

項目 中身
次にやること 冒頭に置く。「何のファイルに、何を作り、どう保存するか」まで書く
寸法・材質・納まりの根拠 網羅的に書く。要約しない
最重要の注意 「ここを外すと成立しない」という1点を目立たせる
未決事項 決まっていないことを、決まっていないと明記する
捨てた案 却下した理由とセットで(蒸し返さないため)
外れた仮説 原因を探る過程で疑ったが無関係だったもの

実物を一部お見せします。ある鉄骨造の建物で、柱の脚部を補強する図面を描いた案件の引き継ぎです。冒頭がこうなっています。

次にやること

図面.dwg(縮尺1/30・図枠と溶接基準図入り)に柱脚補強要領図を作図し、図面r1.dwg として保存する。以降 r2、r3 と版を上げてやり取りする。

その下に、柱・ベースプレート・既存のリブ・新設するリブ・アンカーボルト・溶接の寸法が表で並びます。そして、こう書いてあります。

最重要 □-200×200×9 の隅は R=27。柱心から73mmより外は溶接面にならないので、新設リブはフラット部(柱心±73)に納める。角に寄せると丸みに乗って溶接できない。

角形の鋼管には、角に丸みがあります。そこにはリブを溶接できません。図面を描き始めてからこれに気づくと、描き直しになります。だから引き継ぎの冒頭近くに書いておきます。

最後に「未決事項」として、図面名と図面番号がまだ決まっていないことが2行書いてあります。

要約してはいけない

引き継ぎを書かせるとき、いちばん強く言っているのがこれです。

寸法は全部書く。要約しない。

引き継ぎを読むのは、その現場を見ていない相手です。「柱の断面は前回決めたとおり」では伝わりません。「□-200×200×9、隅R=27」と書いてあれば、そのまま作業に入れます。

同じ理由で、「気をつける」という書き方も禁じています。次に読む側は、何にどう気をつければよいのか分かりません。数値と条件で書けば、判定できます。

前回の連載で、AIが基礎の寸法を間違えたときに残したのが「気をつける」ではなく計算式そのものだった、という話を書きました。引き継ぎ全体に同じ原則を当てはめています。

効果は、次の日に出る

この運用にしてから、はっきり変わったことがあります。

作図の途中で迷わなくなりました。寸法・材質・納まりの根拠が全部引き継ぎに書いてあれば、その場で判断を止める必要がありません。結果として、こちらから「やり直そう」と言う回数が減りました。

逆に言えば、引き継ぎが薄いと、翌日の作業が遅くなります。引き継ぎを書く時間は、翌日の作業時間の前借りです。ここを惜しむと必ず高くつきます。

発注者・意匠事務所にとって何が良くなるか

項目 内容
品質の再現性 前回どう決めたかが記録に残っているので、時期や担当で判断が揺れません

おわりに

次回は、増えすぎた記録をどう整理したかを書きます。1本では引けなくなったので、3層に分けました。

構造に係ることでしたら、お問い合わせからご相談ください。企画段階のご相談、構造計算のレビュー、耐震診断など、内容を問わず承っています。

設計の進め方は技術のページに、これまでのプロジェクトはギャラリーにまとめています。

前連載|第6回|AIに任せないこと

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建築の構想を実体化する設計

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