大手は「開発」でAIを使っている
2026/09/16
いつもご覧いただきありがとうございます。連載の第9回です。
ここまで8回、当社がAIをどう扱っているかを書いてきました。今回と次回は、業界全体の中でそれがどういう位置にあるのかを書きます。まず他社の取り組みからです。
この回が効くのは、発注先を選ぶときの判断材料です。
- 大手の取り組みは、いずれも自社専用システムの開発です。
- 成立には、同種案件の量・揃ったデータ・開発投資の3つが要ります。
- 中小の建設業でAIを導入しているのは15.9%。多数派は使っていません。
他社は何をしているか
まず、公表されている取り組みを整理します。
竹中工務店|構造設計AIシステム
同社は2023年に「構造設計AIシステム」を開発し、全面導入しています。自社で設計した建物約500件、30万以上の構造部材の情報を学習させたものです。
機能は3つに分かれています。
| 機能 | 内容 | 効果として公表されている値 |
|---|---|---|
| AI建物リサーチ | 企画段階で類似案件を選び出し、数量の比較表を自動作成 | 半日〜1日 → 15分程度 |
| AI断面推定 | 配置条件と構造的特徴から、必要な断面寸法を推定して作図 | 1日 → 2時間程度 |
| AI部材設計 | 部材の種類と重量の組み合わせを検討し、構造計算を繰り返し実行 | — |
前回までの連載で当社が書いてきた「企画段階で案を並べて比べる」「断面を早く出す」と、目指しているところは同じです。やり方が違います。
安藤ハザマほか|部材グルーピングシステム
安藤ハザマが、リバネス、ヒューマノーム研究所などと共同で開発したものです。構造計算モデルの部材を自動でグループ分けし、計算の自動実行を誘導するAIシステムです。
開発当初(2022年)の発表では、計算時間と設計資料の作成日数がいずれも従来の約半分になるとされていました。そして2026年3月、このシステムは「BROWNIE」として同社構造設計部門の社内標準システムに採用されています。標準化にあたっての発表では、基本設計の初期検討などの作業時間が平均で約50%削減されたとしています。
開発から社内標準になるまでに4年かかっている、という点も見ておく価値があります。専用システムの開発は、そういう時間軸の取り組みです。
ビューローベリタスジャパン+mign|審査支援システム
作る側ではなく、審査する側の動きです。2026年4月から実運用が始まっています。
申請図書とチェックリストを読み込ませると、適合性の一次選別、数百枚の図面からの該当ページの自動特定、該当箇所のハイライト表示を行います。回答精度は90〜95%以上と公表されています。
前回の連載の第4回で「審査での手戻りを減らすことが工期に直結する」と書きました。その審査の側にAIが入り始めた、ということです。根拠が追える計算書の価値は、これから上がります。
共通しているのは「開発」であること
3つとも、優れた取り組みです。そして3つとも、同じ形をしています。
自社の設計データを学習させた、専用のシステムを開発する。
この形が成立するには、前提が要ります。
- 同種の建物を大量に設計していること。500件・30万部材は、20年以上かけて積み上げた資産です
- そのデータが一箇所に揃っていること。形式がばらばらでは学習に使えません
- 開発への投資ができること。外部のAI企業と組む体制も含みます
裏を返せば、この3つが揃わない事務所には、この道はありません。当社には、いずれも無いということになります。
当社は少人数の事務所です。担当する建物は、免震の高層集合住宅から低層の工場、福祉施設、海外の空港ターミナル、鉄道駅、橋梁の付帯施設まで、規模も用途も国もばらばらです。第1回の連載で書いたとおり、一件ごとに前提が違います。
同じ種類の建物を大量に設計していないので、学習させるべきデータそのものが揃いません。500件のうち490件が事務所ビルだから成立する、という種類の話です。
では、小さい事務所はどうするのか
多くは、何もしていません。
中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した実態調査では、中小企業全体のAI導入率が20.4%、そのうち建設業は15.9%でした。検討中を含めても、建設業は35.4%です。
民間の調査ではもっと低い数字も出ています。中小企業のAI導入率を約12%とし、最大の障壁は「何から始めればいいか分からない」だったとするものです。
数字に幅はありますが、結論は同じです。使っていないのが多数派で、しかも建設業は全体より低い。
当社が選んだのは、3つ目の道でした。
汎用のAIを、運用の設計で戦力にする。
システムを開発するのではなく、任せ方を設計する。この連載と前回の連載で書いてきたことは、全部そこに集約されます。
開発と運用は、何が違うか
| 専用システムの開発 | 運用の設計 | |
|---|---|---|
| 必要なもの | 大量の自社設計データ、開発投資、開発体制 | 手順を言葉にする作業、それを続ける仕組み |
| 作るもの | ソフトウェア | ルールと記録 |
| 効き方 | 標準的な建物で、深く速い | 案件ごとに前提が違っても効く |
| 向く規模 | 同種案件を大量に扱う組織 | 少人数、多品種 |
| 変わったとき | 学習し直し、開発し直し | ルールを書き換える |
| 弱いところ | 想定外の建物には効きにくい | 一発の精度は出ない。人が見る前提を外せない |
優劣の話ではありません。前提が違えば、取るべき道が違うというだけです。
当社の場合、前提が「多品種・少量・少人数」でした。その条件では、専用システムを作ることは合理的でなく、運用を設計するほうがはるかに効きます。用途が変わっても、国が変わっても、書いてあるルールを差し替えれば動くからです。
一方で、当社のやり方には限界もあります。断面を一発で当てるような精度は出ません。人が確認する工程は、どうやっても外せません。前回の連載の最終回で書いたとおり、確認していない結果に署名はしません。
発注者・意匠事務所にとって何が良くなるか
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発注先選びの判断材料 | 大手の路線と小規模事務所の路線は、前提が違います |
おわりに
次回は最終盤です。その中で当社が選んだ道と、実際にやっていることの棚卸しを書きます。
国内・海外を問わず、構造に係ることでしたらお問い合わせからご相談ください。新築の構造設計、耐震診断と補強設計、構造計算のレビュー、企画段階のコンサルティング、海外基準での設計まで承っています。
これまでのプロジェクトはギャラリーに、当社の考え方はポリシーにまとめています。
出典
- 竹中工務店「構造設計をクリエイティブに『構造設計AIシステム』を開発」https://www.takenaka.co.jp/news/2023/09/03/
- 竹中工務店「構造設計AIシステム」https://www.takenaka.co.jp/solution/disaster/designai/
- 安藤ハザマ「AIを活用した構造設計支援システムの開発」(2022年3月7日)https://www.ad-hzm.co.jp/info/2022/20220307.php
- 安藤ハザマ「AI構造設計支援システム BROWNIE の社内標準化」(2026年3月19日)https://www.ad-hzm.co.jp/info/2026/20260319_01.php
- ビューローベリタスジャパン「業界特化型AIエージェントによる次世代審査支援システムを実運用開始」(2026年4月8日)https://www.bureauveritas.jp/bvjc/newsroom/260408
- 中小企業基盤整備機構「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(2026年3月)https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/202603_AI_report.pdf
- 株式会社Leach「中小企業AI導入実態調査2026」https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000045.000153035.html
第8回|速いほうを、あえて選ばない
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