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構造設計はもっと早く確かにできる|AI活用の実践報告

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構造設計は、もっと早く・もっと確かにできる

構造設計は、もっと早く・もっと確かにできる

2026/08/14

いつもご覧いただきありがとうございます。

今回から6回に分けて、当社が設計の進め方をどう変えてきたかを書きます。要点を先に3行で書きます。

  • 企画から実施設計まで、検討にかかる時間が短くなりました。案を捨てる判断が早くなりました。
  • 図面と計算書の食い違いが減りました。人が見るべきところに時間を回せるようになりました。
  • 一方で、判断と責任の所在は何も変わっていません。そこは人が持ちます。

この連載で書くこと

当社は2018年12月に設立した一級建築士事務所です。建築構造設計、設計監理、耐震診断、構造に関するコンサルティングを行っています。

担当している案件の幅は広めです。国内では免震の高層集合住宅から低層の複合施設、工場、福祉施設まで。海外では空港ターミナル、鉄道駅、橋梁の付帯施設、気象観測施設まで。ある国の建築基準を策定する業務も担当しました。規模も用途も国もばらばらな案件を、少人数で回しています。

この数年で、設計の進め方をかなり変えました。何をどう変えたのか、その結果どこが良くなったのか、そして何を変えなかったのかを、実際の案件をもとに書きます。物件が特定される情報は伏せますが、数字はそのまま出します。

一般論だけを書いても、読んでいただく意味がないと考えています。実際にやってみて分かったこと、失敗して直したことを中心に書きます。

そもそも、構造設計事務所は何をしているのか

この連載は、設計に関わる方だけでなく、事業として建物を計画される方にも読んでいただきたいと考えています。そこで、前提を短く整理しておきます。

建物の設計は、大きく3つの分野に分かれます。

意匠設計 建物の形、間取り、外観、使い勝手を決めます。設計全体をとりまとめる立場でもあります
構造設計 建物を支える骨組を決めます。地震・風・積雪・建物自身の重さに対して安全であることを、計算で確かめます
設備設計 電気、空調、給排水などを決めます

当社は構造設計を担当します。

構造設計の成果物は、大きく2つです。ひとつは構造図。柱や梁がどこにどの寸法で入るかを示した図面です。もうひとつは構造計算書。その骨組が安全であることを示した計算の記録で、日本では行政または指定機関の審査を受けます。

建物ができあがると、構造は仕上げの内側に隠れて見えなくなります。それでも、どこまで大きな空間が取れるか、柱を何本減らせるか、いくらかかるか、何十年安全であり続けるかは、構造の設計で決まります。

この連載で扱う「AI」の範囲

言葉の意味も先に決めておきます。この連載で「AI」と書くとき、次の2つを指しています。

  1. 対話型のAI。文章で指示を出すと、計算・文書作成・データの変換・確認作業を行うもの
  2. それを使って組み立てた、当社独自の自動化の仕組み。解析結果から図面を作る、計算書の書式を整える、といった処理

一方、この連載で扱わないものもあります。「AIが構造設計をする」という話ではありません。構造の計画を立て、安全性を判断し、成果物に責任を負うのは人間です。これは第6回で詳しく書きます。

扱うのは、その手前にある大量の作業をどう処理しているか、という話です。

なぜ進め方を変えたのか

少人数で幅の広い案件を扱う事務所の事情

当社のように、規模も用途もばらばらな案件を少人数で扱う事務所には、特有の事情があります。

案件ごとに前提が違います。国内の案件と海外の案件では基準が違います。新築と耐震診断では作業の性質が違います。免震の高層と低層の工場では、検討すべき項目が違います。

大量に同じ種類の建物を設計する事務所であれば、その種類に特化して手順を固めることができます。当社の場合はそれができません。一件ごとに、その案件に合った進め方を組み立てる必要があります。

だからこそ、案件によらず共通する部分をできるだけ仕組みに寄せることに意味がありました。共通する部分とは、モデルの受け渡し、計算書の書式、図面の作図規則、チェックの手順です。ここを固めておけば、案件ごとに考えるべきことに時間を使えます。

時間の使い方が偏っていた

従来の進め方では、設計者の時間の多くが次のような作業に取られていました。

  • 解析ソフトに入力したモデルを、図面用に作り直す
  • 解析結果の数値を、計算書の表に書き写す
  • 意匠変更のたびに、モデルを最初から入力し直す
  • 図面の寸法や符号を目視で確認する

これらはいずれも、注意力を使う割に、判断を含まない作業です。判断を含まない作業に注意力を使ってしまうと、判断が必要なところで注意力が残っていません。ここを変えたいと考えました。

変わったこと

1. 検討の回数が増えた

構造種別や架構形式の比較を、短時間で何案も回せるようになりました。

企画段階で複数の案を並べ、それぞれの鋼材量やコンクリート量まで出します。数量が出れば概算コストが出ます。コストが出れば、その案を採るか捨てるかを判断できます。

企画段階で一番効くのは、案を早く捨てられることです。従来は1案の検討に時間がかかるため、案を絞ってから検討していました。絞った案が成立しなければ、そこで戻ることになります。いまは、絞る前に並べて比べられます。

詳しくは第2回に書きます。

2. 変更への追従が速くなった

一貫計算プログラム、BIM、CADをデータでつないでいます。意匠のプランが動いても、モデルを作り直さずに構造側を追従させられます。

設計の初期にプランが動くのは当たり前のことです。動くこと自体が問題なのではありません。動いたときの追従に時間がかかることが問題でした。追従が速ければ、意匠側は案を粘れます。構造側も変更を嫌がらずに済みます。

海外基準での検討が必要な案件では、国内で作ったモデルをST-Bridgeという交換フォーマット経由で海外基準の解析プログラムに渡しています。同じモデルを二度入力しません。

詳しくは第3回に書きます。

3. 書類の品質が安定した

計算書の書式を統一し、数値の転記を自動化しました。人が書き写す工程が減れば、その工程で起きていたミスは消えます。

解析結果の分布図も、解析ソフトの画面キャプチャではなく、数値データから直接作図しています。こうすると図と本文の数字が必ず一致します。モデルを直したあとに図を貼り替え忘れる、ということが起こりません。

詳しくは第4回に書きます。

4. チェックの網羅性が上がった

検算、干渉のチェック、モデル差分の抽出を機械にやらせています。網羅性は人の目視より確実に高くなります。

ある案件で、解析モデルの変位が異常な値になったことがありました。原因は入力のミスでしたが、目視で怪しい箇所を探して潰していた段階で、まだ276か所を取り残していました。全部材を総当たりで走査して、初めて全部が見つかりました。

人の目視では見つけきれない類のミスがあります。数が多く、見た目には何の異常もなく、1か所でも残れば結果が出ない。こういうミスは機械に探させるべきです。

詳しくは第5回に書きます。

道具を入れれば良くなる、という話ではない

先に書いておきたいことがあります。道具を入れただけでは、何も良くなりませんでした。

ソフトを導入した直後は、むしろ手間が増えます。使い方を覚える時間が要ります。既存の手順との整合を取る必要があります。出てきた結果が正しいかどうかを、別の方法で検証しなければなりません。

実際に効き始めたのは、次の3つを決めてからでした。

  • どの工程を機械に渡し、どの工程を人が持つかを決める。曖昧にしておくと、両方が中途半端になります
  • 渡す工程については、条件を文書にする。「だいたいこうする」ではなく、機械が判定できる形に書きます
  • 結果を検証する方法を、先に決めておく。検証できないものは使いません

この3つは、道具そのものとは関係ありません。設計の手順を整理する作業です。手間はかかりますが、ここを飛ばすと道具は機能しません。

連載の各回では、この「条件を文書にする」部分を具体的に書きます。当社が何をどう決めたのかが、一番お伝えできることだと考えているからです。

変わらなかったこと

構造計画そのもの。安全性の判断。成果物への責任。この3つは変えていません。

現場の事情は数値になっていません。施工能力、材料の調達、工程、工事のしやすさ。これらは解析モデルのどこにも入っていません。人が聞いて、人が決めるしかありません。

ある海外の空港ターミナルでは、鉄骨の接合部を高力ボルトと隅肉溶接で構成しました。解析の上では、ほかの納まりでも成立します。それでもこの構成を選んだのは、現地で確実に施工できるからです。これは計算からは出てきません。

また、日本には構造設計一級建築士という資格制度があります。一定規模以上の建物では、この資格を持つ者が構造設計を行うか、法への適合を確認することが義務づけられています。成果物に責任を負うのは、この資格を持つ個人です。道具が何を出力したかは、責任の所在を変えません。

この話は第6回に詳しく書きます。

当社のAI活用|「導入した」のではなく「雇った」

各回の終わりに、当社が実際にAIをどう使っているかを書きます。連載のどの回から読まれた方にも、当社の取り組みが伝わるようにするためです。第1回は、いちばん根本の話から。

名前を付けて呼んでいる

身も蓋もない話から始めます。当社では、AIに名前を付けて呼んでいます。「クロードマックス君」です。

冗談のようですが、これは扱いを決めるうえで意味がありました。

道具なら、使い方を覚えれば済みます。部下なら、指示の出し方と育て方を考えることになります。名前で呼び始めてから、後者の考え方に完全に切り替わりました。

実際、当社がこの数年やってきたことは、ソフトの導入手順ではなく、優秀なスタッフを一人迎え入れたときの手順そのものです。

新人を迎えるときと同じことをした

具体的には、次のことを先に決めました。

報告の形式 「この項目を、この順で報告する」。想定と大きく違う結果が出たときは、必ず明示して確認を求める
止まる条件 「一括で処理する対象の件数が、事前に数えた数と合わなければ、実行せずに報告する」
必ず聞く場面 「図面の縮尺を自動で判定できた場合でも、一度確認を取ってから進む」
捨てた案の記録 「検討して却下した案も、理由を付けて残す」
失敗の扱い 「間違えたら、原因と再発防止をその場で書く」。それを翌日には事務所の共通ルールに組み込む

これらは道具の設定ではありません。人に仕事を任せるときに決めることと、何も変わりません。

「捨てた案を残せ」がいちばん効いた

この中で、想像以上に効いたのが「捨てた案も残す」でした。

通常、記録に残るのは「うまくいったこと」だけです。しかし設計の現場で時間を食うのは、すでに誰かが検討して駄目だと分かっている案を、もう一度検討し直すことです。

当社の記録には、次のような書き方が並んでいます。

  • 「検討したが取りやめた案(蒸し返さないこと)」— 却下した理由とセットで
  • 「原因を探る過程で疑ったが、いずれも無関係だった項目」— 外れた仮説をそのまま残す

否定的な情報を残しておくと、次に同じ問題に当たったときの切り分けが一気に速くなります。これは人のチームでも同じはずですが、意識してやっている事務所は少ないと思います。

指示の質は、経験からしか出ない

ここで強調しておきたいことがあります。

AIに何をさせるかを決められるのは、その作業を自分でやったことがある人間だけです。

「一括処理の前に件数を数えて確認する」というルールは、数えずに実行して関係のない図面を巻き込んだ経験から出ています。「捨てた案を残す」は、同じ検討を二度やった経験から出ています。経験のない作業について、的確な指示は出せません。

代表は組織設計事務所で30年、構造設計に携わってきました。国内の官庁施設・病院・大学・スポーツ施設から、海外の空港・鉄道・橋梁付帯施設まで担当しています。当社を設立してからも、規模も用途も国もばらばらな案件を続けています。

この幅が、そのまま指示の幅になっています。道具が優秀であることと、その道具から成果を引き出せることは、まったく別の話です。後者を決めるのは、依然として設計者の経験です。

発注者にとって何が良くなるか

設計事務所の内部の話に見えるかもしれませんが、影響が出るのは発注者の側です。4つに整理します。

コストの予見性 企画段階で概算数量が出るので、早い時期にコストの見通しが立ちます。事業の判断を早くできます
スケジュールの確実性 意匠変更への追従が速く、審査での手戻りが減ります。工期の見通しが立ちます
品質の再現性 担当者や時期によって成果物の質が揺れません。長期の案件ほど効きます
リスクの低減 見落としを機械が拾います。人は判断に集中できます

各回の冒頭に、その回がこの4つのどれに効くのかを書きます。

連載の予定

  • 第2回|企画段階で、検討の「回数」を増やす
    構造種別・架構形式の比較を短時間で何案も回す方法。企画段階でコストの見通しを立てる話
  • 第3回|意匠変更に、遅れずついていく
    一貫計算・BIM・CADのデータ連携。プランが動いても構造が追いつく仕組み
  • 第4回|計算書の品質は、仕組みで担保する
    書式の統一と転記の自動化。審査での手戻りを減らす計算書の作り方
  • 第5回|見落としを減らす二重チェック
    276か所の入力ミスを総当たりで見つけた話。機械チェックの使いどころ
  • 第6回|AIに任せないこと
    判断と責任は人が持つ。計算では出てこない判断について

おわりに

道具の話をしていますが、目的は道具を使うことではありません。条件を書ける作業を道具に渡したぶんだけ、条件を書けない部分に時間を使うことが目的です。当社にとっての変化は、突き詰めるとこれだけです。

次回は、企画段階の話を書きます。

当社の設計の進め方は技術のページに、これまでのプロジェクトはギャラリーにまとめています。設計に対する考え方はポリシーをご覧ください。

構造に係ることでしたら、お問い合わせからお気軽にご相談ください。企画段階のご相談、構造計算のレビュー、耐震診断など、内容を問わず承っています。

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建築の構想を実体化する設計

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