意匠変更に、遅れずついていく
2026/08/19
いつもご覧いただきありがとうございます。連載の第3回です。今回は意匠事務所の方に向けた回です。
この回が効くのは、スケジュールの確実性と品質の再現性です。
- 一貫計算・BIM・CADをデータでつないでいるので、モデルを作り直さずに変更を反映できます。
- 意匠の変更が構造に跳ね返るまでの時間が短いので、意匠側が案を粘れます。
- 手で入れ直す工程が減るぶん、図面と計算書の食い違いが起こりにくくなります。
「もう一度モデルを作り直し」はなぜ起きるのか
データが途中で切れている
意匠のプランが動くと、構造のモデルも作り直しになる。これが従来のやり方でした。
なぜ作り直しになるのか。設計に使うソフトが工程ごとに分かれていて、その間でデータが渡らないからです。
- 構造計算に使うソフト
- 基礎の計算に使うソフト
- 二次部材の計算に使うソフト
- BIMのソフト
- 図面を描くCAD
- 海外基準で検討するときの解析ソフト
- 地震時の挙動を追う応答解析のソフト
それぞれのソフトが、それぞれの形式でモデルを持っています。データが渡らなければ、次のソフトでは最初から入力し直すことになります。
1回の入力に半日かかるとして、それが7か所あれば3日半です。意匠が変わるたびにこれをやっていては、追従できるはずがありません。
変更が悪者になる
追従に時間がかかると、次のことが起きます。
構造側は変更を歓迎しません。「これ以上変えないでください」と言うようになります。意匠側は変更を言い出しにくくなります。結果として、良くなるはずだった案が良くならないまま進みます。
本来、設計の初期にプランが動くのは当たり前のことです。動くこと自体が問題なのではありません。動いたときの追従に時間がかかることが問題でした。
実際に使っている連携経路
当社では、次のようにデータをつないでいます。
| 構造図 | 一貫計算プログラム → BIM → CAD |
|---|---|
| 基礎・二次部材 | 一貫計算プログラム → 基礎プログラム/二次部材プログラム |
| 海外基準の検討 | 国内のモデル → ST-Bridge → 海外基準の解析プログラム |
| 応答解析 | 一貫計算プログラム → 時刻歴応答解析 → 応答解析プログラム |
いずれも、モデルを人が入力し直す工程を挟みません。これが効きます。入力し直さなければ、入力し直したときのミスは起きません。
ST-Bridgeについて
ST-Bridgeは、日本の建築構造の分野で使われているデータ交換フォーマットです。異なるソフトの間で構造モデルを受け渡すための共通形式で、節点、部材、断面、材料、荷重といった情報を持ちます。
これがあると、ソフトの組み合わせを自由に選べます。国内の一貫計算プログラムで作ったモデルを、海外基準の解析プログラムに持っていく、といったことができます。
間に共通の形式を挟む理由
入力の系統が2つ、出力の種類が4つあるとします。すべての組み合わせに個別の変換を用意すると、8通りの変換が必要になります。系統が増えるほど、この数は掛け算で増えていきます。
間に共通の形式を1つ挟めば、入力側から共通形式への変換が2つ、共通形式から出力側への変換が4つ、合計6つで済みます。数が増えても、掛け算ではなく足し算で増えます。
当社では、この考え方で連携の経路を組んでいます。地味な話ですが、案件の種類が多い事務所ほど効きます。
自動変換の落とし穴
ここは失敗した話です。
設計用のモデルと解析用のモデルを、スクリプトで相互に変換しようとしたことがあります。結果はうまくいきませんでした。
部材には、形状のほかに多くの付帯情報が付いています。梁がどの柱に取り付いているか、剛域をどう見るか、剛性をどれだけ増大させるか、どの材料を参照しているか。形状だけを変換すると、これらが失われます。失われたまま解析すると、大量の警告が出て、結果も信用できません。
そこで方針を変えました。モデル全体を作り直すのではなく、既存のモデルに差分だけを当てる。変わった部分だけを更新し、変わっていない部分の付帯情報はそのまま残す。この方が確実で、結果として速いことが分かりました。
「つなげばよい」という単純な話ではありません。何を渡し、何を渡さないかを決めることが、実際の作業の中身です。
実例1|曲面の大屋根をもつ空港ターミナル
海外の空港ターミナルの設計を担当したときの話です。
屋根の形状が動く前提の案件でした。曲面の形を決める作業そのものが設計の主題です。屋根の形が変われば、部材の長さも、断面も、支持の仕方も変わります。
モデルを持ち回せる形にしておいたので、形状の検討に時間を使えました。形が変わるたびにモデルを作り直していたら、検討できた案の数は何分の一かになっていたはずです。
こうした案件では、最終的な形の良し悪しが、検討できた案の数に依存します。追従の速さが、そのまま成果物の質になります。
実例2|意匠と構造が一体になった外観

屋外階段やルーバーが外観の主題になっている建物では、意匠側の寸法変更が構造断面に直結します。
ルーバーの見付け寸法を細くしたい。階段の踊り場を持ち出したい。手すりを構造材で兼ねたい。こうした要望は、そのまま構造の検討事項になります。
ここで構造が追従できないと、意匠が痩せます。「構造上、この寸法にしてください」と言われた意匠側が、当初の意図を諦めることになるからです。追従が速ければ、諦める回数を減らせます。
当社が「魅せる構造・見える構造・隠す構造」を意識していると申し上げているのは、こうした場面のことです。構造を意匠に合わせて造り込むには、合わせる作業を何度も回せることが前提になります。
実例3|長期にわたる複合施設

低層の複合施設で、基本設計から実施設計、設計監理まで一貫して担当した案件があります。
設計期間が長い案件では、変更は必ず発生します。用途が変わる、面積が変わる、設備の計画が変わる。工事が始まってからも、納まりの調整が出ます。
データのつながりが切れていない状態を最後まで保つこと。これが結果的に一番早い進め方でした。途中で一度でも手作業に落とすと、そこから先はずっと手作業になります。
構造図だけがつながっても足りない
データ連携というと構造図の話だと思われがちですが、実務ではそれ以外の連携の方が手間を食います。
基礎
基礎の検討には、上部の建物から伝わる力が要ります。柱1本ごとに、どれだけの重さと、どれだけの曲げが基礎に伝わるか。これは上部構造の解析結果から出ます。
この受け渡しを手作業でやると、柱の本数だけ転記が発生します。中規模の建物でも数十本、大きな建物なら数百本です。転記の量に比例してミスが増えます。
当社では、上部構造の計算結果から基礎の計算プログラムへ、データを直接渡しています。上部の設計が変われば、基礎の検討もそのまま追従します。
二次部材
二次部材とは、主要な骨組以外の部材のことです。屋根や壁を支える小さな部材、階段、庇、設備を吊る部材など。数が多く、しかも意匠の変更で最も影響を受けます。
ここも同じ経路でつないでいます。数が多いものほど、自動化の効果が大きく出ます。
地震時の詳細な検討
高層の建物や免震の建物では、実際の地震の記録を使って、建物が時間とともにどう揺れるかを追う解析を行います。
この解析は専用のプログラムで行いますが、そこに渡すモデルも、通常の構造計算に使ったモデルから作ります。別々にモデルを作ると、2つのモデルが食い違ったときに原因を追えなくなります。
まとめると
連携の効果は、次の順で大きくなります。
- 受け渡す数が多いもの(二次部材、基礎、部材リスト)
- 変更のたびにやり直しが発生するもの(意匠変更に連動するすべて)
- 2つのモデルが食い違うと原因追跡が困難になるもの(応答解析、海外基準での検討)
BIMについての誤解
BIMを入れれば連携できる、ではない
BIMを導入すれば自動的にデータがつながる、と思われることがあります。実際には、そうはなりません。
BIMのモデルは、建物を立体で表現したものです。一方、構造計算に使うモデルは、部材を線と点に置き換えたものです。柱は1本の線、床は面、接合部は点になります。この2つは同じ建物を表していますが、持っている情報が違います。
BIMのモデルには、部材の接合条件や剛性の評価方法は入っていません。逆に、構造計算のモデルには、仕上げの厚みや納まりの情報は入っていません。
つなぐというのは、「どの情報をどちらが持ち、どちらを正とするか」を決める作業です。これを決めずにデータだけ渡そうとすると、必ず食い違います。
作図の規則を先に決める
構造図をBIMやCADで自動生成するときも同じです。
どの部材をどのレイヤに描くか。符号の頭文字で部材の種類をどう判定するか。線の太さと種類をどう使い分けるか。破線で表現する部分の尺度をいくつにするか。文字の大きさをいくつにするか。
これらを先に決めて、文書にしておく必要があります。決めずに自動生成すると、案件ごとに図面の見た目が変わります。見た目が変わると、読む人が読み方を変えなければなりません。
当社では、部材の符号の頭文字でレイヤを振り分ける規則を決めています。柱、大梁、小梁、基礎、スラブ、杭、壁。それぞれに実体を描くレイヤと符号を書くレイヤを分けています。通り芯、寸法、階段も別です。
地味な取り決めですが、これがあるから自動生成が成立します。自動化の中身の大部分は、こうした規則を決める作業です。
どこまで自動化するか
図面の自動生成では、次の順番で進めてきました。
- 伏図(各階を上から見た図)
- 通り芯・寸法・図面のタイトル
- 軸組図(建物を横から見た図)
- 印刷用のレイアウト
- 部材リスト(部材の寸法を表にまとめたもの)
すべてを自動で仕上げるわけではありません。下書きまでを自動で作り、そこから先は人が調整します。符号の位置、注記の引出し方、細かい納まりの表現は、人が見て直した方が早く、質も上がります。
自動化の目的は、人が触らなくてよくすることではありません。人が触るべき箇所だけに集中できるようにすることです。
意匠事務所の方にお願いしたいこと
逆の立場からのお願いも書いておきます。
変更をまとめてご連絡いただく必要はありません。途中の案の段階でご相談いただいた方が、結果的に早く進みます。固まってから渡された案が成立しないと、そこから戻ることになるからです。
「まだ固まっていないので」と遠慮していただくことが多いのですが、固まっていない段階こそ、構造側で試せることがあります。
当社のAI活用|指示を出す側の環境も整えた
各回の終わりに、当社のAIの使い方を書いています。第3回は「追従の速さ」がテーマなので、指示を出す速さの話を。
設計しながら、声で指示を出す
当社では、AIへの指示の多くを音声で出しています。図面を見ながら、手を止めずに話せるからです。キーボードに向かい直すと、それだけで思考が切れます。
意匠変更への追従が速いことをこの回で書きましたが、その一部は指示を出すまでの時間が短いことで稼いでいます。変更の連絡を受けて、図面を開いたまま、その場で検討を指示できる。ここで数分の差が積み上がります。
ところが、構造用語は容赦なく誤変換される
音声入力にはひとつ大きな問題がありました。構造の専門用語が、ことごとく誤変換されるのです。
| 話した言葉 | 文字になったもの |
|---|---|
| 座屈長さ | 雑な傘 |
| 横補剛 | 横保護 |
| 擁壁 | 四四平均 |
| 耐風梁 | 台風張り |
| 剛接 | 豪雪 |
| はしあき(端空き) | 足開き |
笑い話のようですが、実務では深刻です。誤変換に気づかないままAIが解釈すると、まったく違う作業が始まります。
やったこと1|マイクを買い替えた
最初にやったのは、マイクの買い替えです。
そして、どういう機種を選ぶべきかもAIに相談しました。指向性をどうするか、事務所のどんな音を拾ってしまうか、口元との距離をどのくらいに保つ想定か。条件を挙げて候補を絞り、クリアに拾えるものを選びました。
結果、誤変換が目に見えて減りました。入力の精度は、話し手の滑舌より先に、機材で決まる部分が大きいということです。
やったこと2|読み替え辞書を作った
マイクを変えても、専門用語の誤変換はゼロにはなりません。一般的な音声認識の辞書に、構造の用語は入っていないからです。
そこで、「こう聞こえたら、本当はこれ」という対応表を作りました。現在60語以上あります。これをAIに読ませています。
さらに、数字の解釈規則も決めています。「三点二」は 3.2、「零点六」は 0.6 として、節番号・係数・寸法のいずれかとして文脈で解釈する。部材の符号(C1、G12 など)は、その物件で既に出てきた符号を優先する。
誤変換に気づいたら、その場で辞書に追記します。辞書は使うほど育ちます。
これは「こちら側を変える」対策です
この2つに共通しているのは、AI側ではなく、自分の側を変えていることです。
部下の聞き取り能力を上げようとするのではなく、自分の話し方と機材を整える。人に対してなら当たり前にやることを、AIに対してもやった、というだけの話です。
ここまでやっている設計事務所は、あまり多くないだろうと思います。ただ、効果ははっきり出ています。指示が速く正確に伝われば、返ってくるものも速く正確になります。意匠変更への追従の速さは、データ連携の仕組みだけでなく、この地味な部分にも支えられています。
発注者・意匠事務所にとって何が良くなるか
| スケジュールの確実性 | 構造の追従待ちで設計が止まりません |
|---|---|
| 品質の再現性 | 入力し直す工程がないので、図面と計算書が食い違いません |
おわりに
次回は、計算書の品質をどう担保しているかを書きます。審査での手戻りの話です。
意匠事務所の方からのご相談も多くいただいています。お問い合わせからご連絡ください。設計の進め方は技術のページに、これまでのプロジェクトはギャラリーにまとめています。
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CODESIGN STRUCTURES株式会社
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建築と一体化した構造への挑戦
建築の構想を実体化する設計
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