CODESIGN STRUCTURES株式会社

構造設計の検算|276か所の入力ミスを総当たりで見つけた話

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見落としを減らす二重チェック

見落としを減らす二重チェック

2026/08/24

いつもご覧いただきありがとうございます。連載の第5回です。今回は具体的な失敗と、その解決の話を書きます。

この回が効くのは、リスクの低減品質の再現性です。

  • 検算・干渉チェック・モデル差分の抽出を機械にやらせています。網羅性は人より確実に高くなります。
  • 狙い撃ちで探すと必ず取り残します。総当たりで走査すれば取り残しません。
  • 空いた時間を、機械には判断できないところに回しています。

変位が発散した

あり得ない数字が出た

ある案件で、解析モデルの変位が異常な値になりました。物理的にあり得ない大きさです。

こうなるのは、モデルのどこかが機構になっているときです。機構とは、部材がつながってはいるが、構造として力を伝えられない状態のことです。たとえば、両端がピン接合の棒が一直線に並んでいると、その列は横からの力に対して抵抗できません。折れ曲がってしまいます。

1か所でもこの状態があると、解析全体が成立しません。変位が無限大に向かって発散します。

原因の候補は多い

問題は、原因の候補がいくつも考えられることです。

  • 支点の条件が足りていない
  • ブレースの設定(引張のみを負担する設定にしているか)
  • 床を剛体と仮定する条件の設定
  • 反復計算の回数や収束の判定条件
  • 部材の接合条件

ひとつずつ疑って、ひとつずつ潰していきました。設定を変えては解析し直す。これを何十回も繰り返しました。

結果として、上に挙げた候補はすべて無関係でした。ブレースの設定も、床の仮定も、反復の条件も、変える必要はありませんでした。

原因は入力のミスだった

中間のピン接合が連鎖していた

最終的な原因は、ひとつでした。

同一直線上にある同じ断面の部材が、中間の節点で両側ともピン接合になっている箇所。ここが機構になります。

これは、大梁を小梁やブレースの取り付く位置で分割したときに起こります。分割する前の大梁が端部にピン接合を持っていると、分割後の2本ともにその設定が引き継がれてしまう。本来、端部だけがピンで、中間の接合は剛でなければなりません。

1本の梁を3つに分ければ、中間の接合が2か所生まれます。梁の本数が多ければ、この箇所は数百に達します。

狙い撃ちでは取り残す

最初は、怪しそうな箇所を目視で探して、見つけたものから直していきました。ある程度直したところで、まだ収束しません。

そこで、全部材を総当たりで走査するようにしました。条件は次のとおりです。「2本の部材が同一直線上にあり(向きのベクトルの内積が−1に近く)、断面が同じで、中間の節点で突き合っている」。この条件に当てはまる組を機械的に全部拾い出し、中間側の接合条件を剛に直します。

走査した結果、その時点でまだ276か所が残っていました。

目視で探していた段階では、自分では「だいたい潰した」つもりでした。実際には桁違いに取り残していたことになります。

なぜ目視で見つからないのか

このミスには、次の性質があります。

  • 数が多い。数百単位で存在する
  • 見た目に異常がない。画面上は普通の梁として表示される
  • 1か所でも残ればゼロと同じ。275か所直しても結果は出ない
  • どこにあるか分からない。分割の履歴に依存するので、規則性が見えにくい

これは人の目視では見つけきれない類のミスです。逆に言えば、こういうミスこそ機械に探させるべきです。

切り分けの方法

原因を突き止めるまでに時間がかかりました。もっと早くできたはずです。反省を書きます。

やり方を変えるべきでした。全体のモデルで試行錯誤するのではなく、疑っている部材群だけを取り出した最小のモデルを作り、そこで判定する。問題が再現すればその中に原因があり、再現しなければ外にあります。範囲を半分ずつ絞っていけば、少ない回数で到達できます。

いまは、原因が分からないときは最初にこれをやります。全体で悩む前に、小さいモデルで切り分ける。

そこから決めた3つのこと

この一件から、当社では次のようにしています。

1. 一括で処理する前に、対象の件数を数える

条件を決めて一括で修正するとき、対象が何件あるかを先に数えて確認します。想定した件数と実行結果が合わなければ、そこで止めます。合わない場合、条件が広すぎて関係ないものを巻き込んでいるか、狭すぎて取りこぼしているかのどちらかです。

数えずに実行すると、巻き込んだことに気づきません。気づかないまま先に進むのが一番危険です。

2. 狙い撃ちで潰さない

怪しい箇所を個別に直すのではなく、条件を決めて総当たりで走査します。条件を書けるなら、書いて全部に当てるべきです。

3. 前のバージョンとの差分を機械的に取る

作業の前後でモデルや図面の差分を取ります。「いつの間にか変わっていた」を防ぐためです。

複数人で作業する案件では特に効きます。誰がどこを変えたのかを、記憶ではなくデータで確認できます。

一括処理は、いちばん危ない道具

ここまで「総当たりで処理する」ことの利点を書いてきましたが、同じ性質が危険にもなります。

条件を間違えたまま一括で実行すると、間違いも一括で広がります。

実際に巻き込んだ

図面上のある表を移動させようとして、範囲の指定が甘く、隣にあった別の表の右半分まで一緒に動かしてしまったことがあります。図面を1枚消して、貼り直しになりました。

厄介なのは、実行した直後には気づかないことです。動かした対象は意図どおりに動いているので、画面上は正常に見えます。巻き込まれた側は、視野の外にあります。

だから、先に数える

この失敗から決めたことがあります。

一括処理の前に、対象が何件あるかを数えて提示する。そして実行結果の件数と照合する。合わなければ、そこで止めます。

件数が想定より多ければ、条件が広すぎて関係のないものを巻き込んでいます。少なければ、条件が狭すぎて取りこぼしています。どちらにしても、実行してから気づくより、実行前に気づく方がはるかに安いです。

作業前に必ず別名で残す

あわせて、作業に入る前に必ず現在の版を別名で保存することにしています。

「元に戻す」機能に頼らないためです。一括処理の後に別の作業をしてから間違いに気づくと、戻せる範囲を超えていることがあります。ファイルとして残っていれば、いつでも戻れます。

手直しされた箇所は、正解として扱う

もうひとつ、機械に任せるときの決まりがあります。

設計者が手で直した箇所を、機械に再編集させない。

図面の細部は、最終的に人が手で調整します。注記の位置、線の端部の処理、細かい納まりの表現。これらは自動生成では詰めきれません。

その手直しを、次の一括処理で機械が上書きしてしまうと、同じ調整を何度もやり直すことになります。作業が前に進みません。

そこで当社では、手直しされた箇所は「正解の見本」として扱うことにしています。同じ種類の作図をするときは、その箇所の座標や形状を読み取って、そこから寸法の規則を抽出してから真似る。手直し部分そのものには触りません。

これも、人のチームでの仕事と同じ考え方です。先輩が直した図面を、後から入った人が勝手に戻さない。当たり前のことですが、機械には明示的に指示しないと守られません。

どこを直したか、記憶に頼らない

複数の版を行き来する作業では、「どこが変わったか」を記憶で追うのは無理があります。

当社では、作業前の版と作業後の版を機械的に比較して、差分を一覧で出すようにしています。図面でも、解析モデルでも、文書でも同じです。

これをやると、次のことが分かります。

  • 意図した箇所が、意図したとおりに変わっているか
  • 意図していない箇所が、変わっていないか
  • 設計者が手で直した箇所が、どこにあるか

3番目が特に効きます。前回の作業から時間が空いていると、どこが手直しされたか分からなくなります。差分を取れば一目で分かります。

ほかにやっている機械チェック

干渉のチェック

配筋、スリーブ、設備との干渉を座標で検算しています。

図面の線の端部が正しく接続しているか(隙間・はみ出し・重複がないか)も、目視ではなく座標で確認します。接合部のような細かい部分では、線が1ミリ浮いていても図面としては成立してしまいます。それを座標で拾います。

要素の種類の確認

壁やスラブを板要素でモデル化するとき、要素の種類を必ず確認します。

板の要素には、面内の力だけを伝える種類と、面外の曲げも伝える種類があります。前者を使うと、面外方向の剛性がゼロになります。壁とスラブとリブが直交して組み合わさるようなモデルでは、1つの面にしか属さない節点が不安定になり、解析が成立しません。

「モデルが不安定です」という表示が出たら、まずこの設定を疑います。要素の種類を正しいものに置き換えれば直ります。これも、知らないと延々と別の原因を探すことになります。

既存建物の耐震診断

耐震診断を行った既存建物の外観

竣工が古い建物では、当時の図面と現況が食い違うことがあります。増築されている、改修で開口が塞がれている、図面にない補強が入っている。

現況調査の結果とモデルを突き合わせる工程を、仕組みに載せています。図面だけを見てモデルを作ると、実在しない建物を評価することになります。

耐震診断とは、既存の建物の耐震性能を現行の基準に照らして評価する制度です。日本では、1981年の基準改正より前に設計された建物を中心に、広く行われています。当社では、昭和初期に建てられた建物の診断と補強設計も担当しました。

発注者にとって何が良くなるか

リスクの低減人の注意力に依存しない形で、見落としを拾います
品質の再現性チェックの網羅性が、担当者や体調によって変わりません

当社のAI活用|AI自身に、自社の記録を点検させた

各回の終わりに、当社のAIの使い方を書いています。第5回は「見落としを減らす」がテーマなので、AI自身の見落としをどう拾っているかを。

失敗は、その日のうちにルールにする

当社では、AIが間違えたとき、次の3つをその場で書かせています。

  1. 何を間違えたか(誤った値と、正しい値を並べて)
  2. なぜ間違えたか(どの資料のどこを見て、どう解釈を誤ったか)
  3. 次にどうするか(同じ状況で踏まないための条件)

そして3番目を、その日のうちに事務所の共通ルールに書き加えます。

実例を挙げます。ある日、基礎の寸法をAIが誤りました。参照した表の値をそのまま使ったのですが、その表自体が古かった。このとき残ったのは「気をつける」ではなく、寸法を決める計算式そのものでした。以後、表を見つけても必ずその式で検算します。

「気をつける」は、次の担当者には引き継げません。式は引き継げます。

1か月ぶんの記録を、AI自身に読ませた

この連載を書いている最中に、少し変わったことをしました。

1か月ぶんの作業記録を全部AIに読ませて、当社のAIの使い方を評価させたのです。共通ルール、作業要領12本、案件ごとの引継ぎメモ23本。合わせて450KBほどあります。

返ってきた評価のうち、役に立ったのは弱点の方でした。

知識を貯める仕組みは動いている。しかし、捨てる・直す仕組みが無い。追加は回っているが、更新と廃棄が回っていない。

矛盾した指示が7か所あった

具体的には、互いに矛盾する指示が7件見つかりました。

  • 設定ファイルには「図面の梁は単線で描く」、作業要領には「実幅で描く」
  • 手順書と数値パラメータのファイルで、図面の配置基準が違う値になっている
  • しかも、手順書とは逆の操作を指示している箇所がある
  • 「この方法は使えない」という古い記述が、すでに解決済みなのに残っている

いずれも、新しい記述を足すときに、古い記述を消さなかった結果です。1か月で450KBが溜まる速度なら、当然起こります。

この構図は、第5回の本題とまったく同じでした。数が多く、見た目に異常がなく、どこにあるか分からない。人が目視で探して見つかる類のものではありません。だから機械に探させました。

その場で直し、再発防止の決まりを作った

7件はその場で全部直しました。あわせて、2つの決まりを作りました。

ひとつは、確定していない検討には [OPEN]、確定したものには [CLOSED] と印を付けること。印のないものは他所へ引用しない、というルールです。検討中の数値が、確定した数値のような顔をして別の資料に紛れ込むことを防ぎます。

もうひとつは、回避策を書くときは理由を1行添えること。「この表は使わない」とだけ書いてあると、次に読んだ人が「直すべきものを放置している」と誤解して、直す必要のないものを直そうとします。理由が1行あれば防げます。

点検の対象に、AIの書いた文書も含める

設計事務所は、自分たちの仕事の進め方を定期的に見直します。当社は、その対象にAIが書いた文書まで含めることにしました。

記録を書いたのがAIである以上、その整合を確かめるのもAIにやらせるのが早い。それだけの話ですが、この点検を仕組みとして持っているかどうかで、1年後の記録の信頼性はまったく違ってくるはずです。

チェックの網羅性を上げるという発想を、設計だけでなく事務所の運営そのものにも当てはめている、ということです。

空いた時間をどこに使うか

機械が拾えるのは、条件を書ける類のミスだけです。

構造計画そのものが妥当かどうかは、機械には判断できません。この架構でよいのか。この形式が敷地条件に合っているのか。施工の順序に無理はないか。将来の改修に対応できるか。こうしたことは、条件を書けません。

チェックにかけていた時間を、そちらに回しています。機械にチェックを任せる目的は、人がチェックから解放されることではなく、人が判断に時間を使えるようになることです。

おわりに

次回は最終回です。AIに任せないことについて書きます。

耐震診断・耐震補強設計、構造計算のレビューも承っています。お問い合わせからご相談ください。耐震に関する当社の取り組みはこちらのページにまとめています。

第4回|計算書の品質は、仕組みで担保する

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建築と一体化した構造への挑戦

建築の構想を実体化する設計

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