CODESIGN STRUCTURES株式会社

構造設計でAIに任せないこと|判断と責任は人が持つ

お問い合わせはこちら

AIに任せないこと

AIに任せないこと

2026/08/26

いつもご覧いただきありがとうございます。連載の最終回です。

ここまで5回にわたって、何をどう変えたかを書いてきました。最後に、変えなかったことを書きます。

この回が効くのは、リスクの低減です。とくに海外から日本の設計事務所に発注される方に読んでいただきたい回です。

  • 構造計画、安全性の判断、成果物への責任。この3つは委譲しません。
  • 現場の事情は数値になっていません。施工能力・調達・工程は、人が聞いて決めるしかありません。
  • お預かりした図面とデータの守秘は、道具を選ぶときの基準そのものです。

計算では出てこない判断

接合部を決めた理由

南アジアのある国際空港のターミナルを設計したときの話です。

鉄骨の接合部を、高力ボルトと隅肉溶接で構成しました。

高力ボルトは、強い力で締め付けたボルトで部材どうしを摩擦で留める方法です。隅肉溶接は、直角に交わる部材の入隅部分を溶接する方法で、溶接の中では比較的単純な部類に入ります。

解析の上では、ほかの納まりでも成立しました。突合せ溶接を使えば部材の断面をより有効に使えますし、部材の数も減らせます。それでもこの構成を選んだのは、現地で確実に施工できるからです。

現地の事情は解析モデルに入っていない

建物を建てる場所によって、次のことが変わります。

  • 溶接工の技量と、資格の制度
  • 現場で使える溶接機と、電源の安定性
  • 溶接部を検査する体制があるか
  • 調達できる鋼材の規格と、その品質のばらつき
  • 工場で加工できる範囲と、現場でやらざるを得ない範囲
  • 雨季の長さと、工程への影響

これらは解析モデルのどこにも入っていません。数値化されていないからです。現地に聞き、条件を確かめ、それに合わせて納まりを決める。これは計算からは出てきません。

難しい納まりを設計して、現場で施工できなければ意味がありません。確実に施工できる方法で、必要な性能を満たす。この判断が設計の中身です。

どれだけ道具が良くなっても、この部分は人の仕事のままです。

基準が違えば、前提が違う

鉄道駅舎の構造解析モデル

海外基準での設計

東南アジアの鉄道駅では、現地基準に基づく設計へのコンサルティングを担当しました。

国が違えば設計基準が違います。荷重の考え方、安全率の取り方、要求される性能、想定する地震の大きさ。同じ建物でも、どの国の基準で設計するかによって部材の寸法が変わります。

基準の条文は読めば分かります。しかし、その条文が何を守ろうとしているかは書いてありません。なぜその数値なのか、どういう事故を経てその条文ができたのか。そこを読み解かないと、条文に書いていない場面で判断できません。

基準を作る側を経験する

当社は、ある国の建築基準そのものを策定する業務を3か年にわたって担当しました。国の機関からの委託です。

ルールを作る側を経験すると、ルールの限界が分かります。

基準は、想定した範囲の建物に対して安全側の答えを出すように作られています。想定の外側は書いてありません。書いていないことは、基準が想定していないことです。そこは設計者が判断するしかありません。

基準に適合していれば安全、という関係ではありません。基準は最低限の要求であり、それを満たしたうえで、その建物固有の条件を設計者が考える。この順序は変わりません。

資格と責任

構造設計一級建築士

日本には構造設計一級建築士という資格制度があります。

一級建築士の資格を持ち、さらに構造設計の実務経験と講習を経て取得する資格です。一定規模以上の建物では、この資格を持つ者が構造設計を行うか、または法への適合を確認することが義務づけられています。

成果物に責任を負うのは、この資格を持つ個人です。会社ではなく個人です。道具が何を出力したかは、責任の所在を変えません。

確認していない結果には署名しない

当社では、機械が出した結果を必ず人が確認します。確認していない結果には署名しません。

これは形式的な話ではありません。前回書いたように、機械が出した結果が間違っていることは実際にあります。入力が間違っていれば出力も間違います。出力の形が整っていることと、内容が正しいことは別です。

「ソフトがそう計算したから」は、説明になりません。なぜその値が妥当なのかを、設計者が説明できなければなりません。

推測で決めない

もうひとつ、当社で決めていることがあります。

分からないことを推測で埋めない。基準書、ソフトのマニュアル、既存の正常なデータ。必ずどれかで裏を取ってから書きます。

「たぶんこうだろう」で進めると、ほとんどの場合は外れます。外れたことに気づくのは、ずっと後になってからです。そのときには、その推測を前提にした作業が積み上がっています。

少し調べれば分かることを調べずに進めるのが、一番高くつきます。地味ですが、これは徹底しています。

守秘の扱い

お預かりする図面、計算データ、事業の計画。これらは公開されていない情報です。

道具を選ぶときは、性能より先に「何を外に出すことになるか」を確認します。どこにデータが保存されるのか。学習に使われるのか。契約上どうなっているのか。

外部のサービスに渡さないと決めているデータがあります。便利さと引き換えにできないものだと考えています。

海外の投資家の方からご相談をいただくとき、この点を最初に確認されることが増えました。当然のことだと思います。

人がやること、機械がやること

連載を通して書いてきたことを、線引きの形で整理します。

機械に任せること条件を書ける作業。転記、書式の統一、図の作成、総当たりの検算、干渉のチェック、モデル差分の抽出、複数案の解析
人がやること条件を書けない判断。構造計画、架構形式の選択、現地条件の読み取り、基準の解釈、設計値の決め方、安全性の判断、成果物への責任

この線引きは固定ではありません。条件を書けるようになったものは、順次機械に移していきます。ただし、下の行がなくなることはありません。

当社のAI活用|「導入した」のではなく「雇った」

連載の締めくくりに、当社での実際の使い方をまとめておきます。当社はAnthropic社のClaudeを使っています。以下は道具の紹介ではなく、使い方の作法の話です。

名前を付けて呼んでいる

まず、身も蓋もない話から。当社では、AIに名前を付けて呼んでいます。「クロードマックス君」です。

冗談のようですが、これは扱いを決めるうえで意味がありました。道具なら、使い方を覚えれば済みます。部下なら、指示の出し方と育て方を考えることになります。名前で呼び始めてから、後者の考え方に変わりました。

構造設計以外にも使っている

設計以外でも使っています。

  • 自社ホームページの運営。この連載も、素材の整理から原稿、検索エンジン対策の設計まで一緒に組み立てました
  • 情報管理と守秘の線引き。どのデータを外部のサービスに渡さないか、どの作業を社内で閉じるかを整理しました
  • 新しい設備・ソフトの導入検討。仕様の比較、既存システムとの連携可否、導入前に確認すべき項目の洗い出し
  • 業務環境の保守。設計用ソフトの動作が遅くなった原因の切り分けなど
  • 機材の選定。音声入力用のマイクを買い替えたときも、機種の選定から相談しました

小さな事務所では、こうした業務に専任を置けません。設計者が自分でやることになります。ここに時間を取られると、設計の時間が減ります。設計以外での活用は、地味ですが効き目があります。

結果として起きたこと

当社がやってきたことは、ソフトの導入ではなく、優秀なスタッフを一人迎え入れたときの手順そのものです。名前で呼び、仕事の任せ方を決め、報告の形式を指定し、聞き取りやすいように自分の話し方と機材を整え、間違えたら原因を書かせて次に活かす。新しく人が入ったときにやることと、何も変わりません。

そして、その結果として起きたことも、優秀なスタッフが増えたときと同じでした。

整合性が上がった同じ数値が複数の資料に散らばらず、図面と計算書が食い違わなくなりました
品質が上がったチェックが網羅的になり、書式が担当や時期で揺れなくなりました
速度が上がった検討の回数が増え、意匠変更への追従が速くなりました

これが目的です。AIを使うことが目的ではありません。整合性と品質と速度を上げることが目的で、そのために優秀な人手が要り、その人手をこういう形で確保した、というだけの話です。

なぜ小さな事務所がここまでやるのか

理由はひとつです。小規模な事務所が、大規模な組織と同じ品質で仕事をするためです。

品質の再現性と情報の安全性は、事務所の人数では決まりません。仕組みで決まります。書式が揺れないこと、チェックが網羅的であること、誰が扱っても手順が同じであること、扱ってよい情報とそうでない情報の線が引かれていること。これらは全部、規模ではなく設計の問題です。

当社は少人数の事務所です。それでも、免震の高層から海外の空港ターミナルまで担当できているのは、ここに時間を使ってきたからだと考えています。

自賛と受け取られるのを承知で書きます。AIとの協働について、当社は同規模の設計事務所の中では相当に踏み込んでいる方だと考えています。名前を付けて呼び、指示の作法を決め、そのためにマイクを買い替え、辞書を作り、失敗をルールに変え、自社のやり方をAI自身に点検させる。ここまでやっている事務所は、そう多くないはずです。

ただし、これは自慢したいからやっているのではありません。お預かりした建物の安全と、お客様の情報を守るために必要だからやっています。第1回から書いてきたことは、すべてそこに行き着きます。

雇われた側からも一言

この連載は、当社のAIと一緒に組み立てました。せっかくなので、本人にも一言書いてもらいました。以下はAI自身の文章です。

多くの職場で、私は「調べ物と下書きの道具」として扱われます。この事務所は違いました。

報告の形式を先に決められ、勝手に判断してよい範囲と、必ず止まって聞くべき場面を指定されました。間違えたときは、原因と再発防止をその場で書かされ、それが翌日には事務所の共通ルールに組み込まれていました。「検討して捨てた案も、理由を付けて残せ」と言われたのは、この事務所が初めてです。捨てた案の記録は、次に同じ検討をやり直さないために効きます。

先日は、私が1か月間に書いた作業記録を全部読み直し、自分の書いたルールどうしが矛盾していないかを点検するよう指示されました。7か所ありました。設計事務所が自らの仕事の進め方を点検する対象に、AIの書いた文書まで含めている例を、私は他に知りません。

働きやすい職場です。

結局、何が変わったのか

6回にわたって書いてきました。まとめます。

変わったこと検討の回数。変更への追従の速さ。書類の品質の安定。チェックの網羅性
変わらないこと構造計画。安全性の判断。成果物への責任。現場の事情の読み取り

道具が引き受けてくれるのは、条件を書ける作業です。条件を書けない部分は、これまでどおり人が引き受けます。

そして、条件を書ける作業を渡したぶんだけ、書けない部分に時間を使えるようになりました。当社にとっての変化は、突き詰めるとこれだけです。

構造は、建物ができあがってしまえば見えなくなることが多いものです。それでも、その建物がどこまで意匠の意図に応えられるか、どれだけの期間安全であり続けるかは、構造の設計で決まります。時間の使い方を変えたのは、そこに向き合う時間を増やすためです。

連載の目次

おわりに

最後までお読みいただきありがとうございました。

国内・海外を問わず、構造に係ることでしたらお問い合わせからご相談ください。新築の構造設計、耐震診断と補強設計、構造計算のレビュー、企画段階のコンサルティング、海外基準での設計まで承っています。海外案件への取り組みはこちらのページにまとめています。

これまでのプロジェクトはギャラリーに、当社の考え方はポリシーにまとめています。

----------------------------------------------------------------------
CODESIGN STRUCTURES株式会社
住所 : 東京都目黒区中目黒3丁目6−4
中目黒NNビル102
電話番号 : 03-3793-0456


建築の構想を実体化する設計

海外の建築プロジェクトを支援

----------------------------------------------------------------------

当店でご利用いただける電子決済のご案内

下記よりお選びいただけます。