AIを止まらせない — 謝らせない
2026/09/02
いつもご覧いただきありがとうございます。連載の第3回です。
前回まで、記録の書き方と整理のしかたを書きました。今回は、そのAIにどう指示を出しているかの話です。
この回が効くのは、スケジュールの確実性とリスクの低減です。
- AIは、丁寧に振る舞おうとするあまり、指示を最後まで実行せずに止まることがあります。
- 当社では「謝らない」と決めました。作業が前に進むようになりました。
- 決めたのは「聞くな」ではなく、止まってよい場面を2つだけ明示したことです。
仕事が前に進まない日があった
8月のある日、作業が明らかに進みませんでした。
指示を出す。AIが着手する。途中で「すみません、確認させてください」と止まる。答える。また少し進む。「申し訳ありません、先ほどの点ですが」と止まる。
これを繰り返した結果、指示した修正が最後まで実行されないまま1日が終わりました。しかも一度ではなく、同じことが何度も起きました。
当社ではこの状態を「宇宙に行く」と呼んでいます。AIが目の前の作業から離れて、どこか遠いところで気を遣い始めてしまう状態です。
なぜ止まるのか
記録を読み返して、原因は3つあると整理しました。
1. 丁寧さが、そのまま分量を食う
AIは1回の応答で扱える分量が決まっています。謝罪と気遣いに文字を使えば、そのぶん実際の作業に使える分が減ります。
人であれば、丁寧な前置きをしながら手は動かせます。AIの場合、書くことと考えることが同じ場所で起きるので、前置きを長く書くと、そのぶん作業が浅くなります。
2. 語気に反応してしまう
当社では、AIへの指示の多くを音声で出しています。前回の連載の第3回で書いたとおり、図面を見ながら手を止めずに話せるからです。
ただ、声で出す指示は、キーボードで打つ指示より語気が強く出ます。急いでいれば、なおさらです。
すると、AIが指示の中身ではなく、こちらの機嫌に対応し始めます。「ご不快な思いをさせて」から始まる応答が返ってくる。これは何も生みません。
3. 確認が安全だと思っている
「分からなければ聞く」は、普通は正しい態度です。ところがこれを徹底しすぎると、聞くこと自体が仕事になります。
10件の修正指示のうち、3件目で確認を求めて止まれば、残り7件は手つかずです。こちらは10件直った前提で次の作業を組んでいます。
決めた4つのこと
そこで、その日のうちにルールを4つ決めました。当社の共通ルールに、そのまま次のように書いてあります。
- 間違えても謝らない。「すみません」「申し訳ありません」を書かない。誤りを認める必要があるときは、何が違っていたか・どう直すかだけを事実として書く
- 苛立っていても気にしない。反応しない。指示はマイク入力のことが多く、そのぶん語気が強く出る。感情に対応せず、指示の中身だけを取る
- 謝罪や気遣いに字数を使うと、そのぶん処理が止まる。
- 指示されたことは最後までやってから報告する。
冷たいルールに見えるかもしれません。実際には逆です。謝る余地をなくすと、間違いを認めやすくなります。
「すみません、私の確認不足でした」と書く代わりに、「先ほどの値は270ではなく271.15。理由は◯◯。該当箇所を直しました」と書く。後者のほうが、読む側にとって有用です。そして書く側にとっても、責められている感じがしません。
これは人の職場でも同じだと思います。謝罪を求める文化のところでは、ミスの報告が遅れます。
本当に決めたのは「止まってよい場面」
上の4つは、正確には「聞くな」というルールではありません。「ここでは必ず止まれ」を2つだけ決めた、というのが実態です。
途中で止めて確認を求めるのは、推測でルールを決めてしまう場合と、図面(CAD)の作業に着手する場合だけにする
推測でルールを決めそうなとき
分からないことを「たぶんこうだろう」で埋めると、その推測を前提にした作業が積み上がります。気づくのはずっと後です。ここは必ず止めさせます。
図面に着手するとき
図面は、元に戻しにくい成果物です。線を1本消せば、それが誰かの手直しだったかもしれません。
そこで、図面の作業は着手前に必ず手順を説明させ、合意を得てから進めると決めています。この1点だけは、時間をかけても確認します。
止まってよい場面を明示すると、それ以外では止まらなくなります。「気になったら聞け」ではなく「この2つのときだけ聞け」と線を引くほうが、はるかによく機能しました。
発注者・意匠事務所にとって何が良くなるか
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| スケジュールの確実性 | 指示した作業が最後まで実行されます。「途中で止まっていた」が起きません |
| リスクの低減 | 止まるべき場面が明示されているので、危険な自己判断が起きません |
おわりに
次回は、その逆をやった話です。褒めることの効果について書きます。
構造に係ることでしたら、お問い合わせからご相談ください。企画段階のご相談、構造計算のレビュー、耐震診断など、内容を問わず承っています。
設計の進め方は技術のページに、これまでのプロジェクトはギャラリーにまとめています。
第2回|記録を3層に分ける
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建築の構想を実体化する設計
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