一時ファイルを作らない
2026/09/07
いつもご覧いただきありがとうございます。連載の第5回です。
ここまで、記録の書き方と指示の出し方を書きました。今回は置き場所の話です。地味ですが、効き目はいちばん大きいかもしれません。
この回が効くのは、品質の再現性とコストの予見性です。
- 同じ処理を書いたスクリプトを、3日で4回作り直しました。
- こちらが作ったものと、先方から受け取ったものを必ず分けます。
- 一件のための工夫は、2件目で共通の作業要領に昇格させます。現在12本あります。
同じものを4回書いた
前回の連載で、当社は解析結果から図面を作る処理や、数値を計算書の書式に流し込む処理を、その場で組み立てていると書きました。
この「その場で組み立てたもの」を、当初は作業用の一時フォルダに置いていました。動けばよい、と思っていたからです。
一時フォルダは、作業の区切りとともに消えます。翌日、同じ処理が必要になる。しかしファイルは残っていない。だから、また書く。
3日間で4回、同じことが起きました。
書き直すこと自体は数分で済みます。問題はそこではありません。毎回わずかに違うものができることです。前回入れたはずの例外処理が抜けている。単位の扱いが違う。結果が微妙に合わない。合わない理由を探すのに、書き直すより時間がかかります。
置き場所を決めた
そこで、共通ルールに1行加えました。
作業スクリプトは一時フォルダに置かない。案件フォルダの決まった場所に、主題ごとのフォルダを作って保存する。汎用のものは共通フォルダへ。
あわせて、フォルダ全体の構成も決め直しました。案件ごとに、次の2つを必ず分けます。
| フォルダ | 中身 |
|---|---|
| こちらが作ったもの | 図面、計算書、解析モデル、作業用のデータやスクリプト |
| 先方から受け取ったもの | 意匠図、質疑書、施工図、報告書、議事録、見積書 |
さらに、案件の提出成果物とも分けます。3つを混ぜません。
分ける理由は、どれが正なのかを常に判定できるようにするためです。受け取った意匠図と、こちらで加工した意匠図が同じ場所にあると、数か月後には見分けがつきません。作業の中間版と提出した版が同じ場所にあれば、なお危ない。
この整理を8月上旬に実施しました。旧来の作業用ドライブ(6.4GB・13案件)を廃止して、同期フォルダに統合しています。移設のときは、ファイル数と容量の完全一致を確認しました。途中で2件の取りこぼしを見つけて修正しています。転送中に切れていた計算書が1本と、丸ごと抜けていたプログラム143本です。
数えていなかったら、気づいていませんでした。前回の連載の第5回に書いた「一括処理の前に件数を数える」を、フォルダの移設にも当てはめた形です。
一件のための工夫が、次の案件で効く
置き場所を決めると、次のことが起きます。作ったものが残るので、次の案件で使えます。
現在、当社には12本の作業要領があります。
- 解析モデルから伏図を作る手順
- 同じく軸組図を作る手順
- 部材リストの書式
- 印刷用レイアウトの作り方
- 解析結果の分布図を作る手順
- 風による揺れの検討手順
- 地震応答解析ソフトの操作手順
- 別系統の解析データを変換する手順
- 交換フォーマットから図面を作る手順 ほか
どれも、最初は特定の1案件のために書いたものです。汎用の道具を先に作ったわけではありません。
汎用へ昇格させる基準も決めました。2件目で同じことをやったら、共通フォルダへ移す。1件目では判断しません。1件だけの経験で汎用化すると、その案件固有の条件が紛れ込むからです。
これは前回の連載の第3回で書いた「間に共通の形式を1つ挟むと、変換の数が掛け算ではなく足し算で増える」という話と、同じ発想です。今回はデータではなく手順に当てはめています。
発注者・意匠事務所にとって何が良くなるか
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 品質の再現性 | 一度確立した手順が案件をまたいで残ります |
| コストの予見性 | 同じことを二度作らないぶん、検討にかけられる時間が増えます |
おわりに
次回は、その記録をどう畳むかを書きます。増やす仕組みだけでは機能しません。
構造に係ることでしたら、お問い合わせからご相談ください。企画段階のご相談、構造計算のレビュー、耐震診断など、内容を問わず承っています。
設計の進め方は技術のページに、これまでのプロジェクトはギャラリーにまとめています。
第4回|叱るより、褒めて型を残す
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建築の構想を実体化する設計
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